「Grey Area」
美術家 / 松嶺貴幸


松嶺 貴幸 / Takayuki Matsumine
1985年生
岩手県雫石町生まれ、同県の盛岡市に制作拠点を置き、国際的に活動する美術家。自身の「極めて死に近い体験」からなる死生観を表現する作品や、生まれ育った大自然の美しい環境と今日のテクノロジーの進化とを対比し、独自の思考と社会へのメッセージを作品に込め表現・発表している。
“Grey Area”
今日、私たちは、自分たちそのものの存在価値と、私たちが存在する空間について再定義をすることを差し迫られている状況にある。「データで再現、超越できてしまう世界」メタバースでは、今日まで私たちが生きてきた神がつくりし世界を機能的、かつ視覚的に超えてしまうものになりえる可能性がある。私たちは、現実世界とデータで構成された新世界のハザマ「Grey Area」に立ち尽くしているのだ。
生身の私は、私のアバターの奥の操縦士としてしか存在しない。私たちはアバターに身を委ね、新しい世界での生き方を探求していく。人とのコミュニケーションとは、文字でも声であっても、データで再現されたものに過ぎず、そのデータを取り交わす。その新しい世界の中で流れる川や海の水の色は、以前私たちがいた世界の自然の理りを超えて美的だ。「涼風になびく八月の葉は緑ではいけない」と誰が決めたのか。今、私たちがその新しき世界を創り出す神なのだから、自然の道理は私たちがデザインしてしまおう。髪の色をポップカラーでグラデーションに染めてきた様に、虹色の魚を空気中に泳がせよう。その見た目と機能は全てデータで作成できてしまうのだから。
あるいは、目の前に実に私の好みな人が現れたとしよう。その出会いは偶然ではない。また、私が行動し、追い求めたことによる結果でもない。なぜなら、私の嗜好をAIが全て知っているからだ。私の嗜好に合わせてアルゴリズムされた情報のみ、目の前に表れる。逆に、都合の悪いものは表れない。私たちが新しく生きるその世界の全ては、データの操縦で事足りるのだ。
「人間の矛盾の姿を描く」
私は大ケガによって四肢が自由に動かないため、原画をCGで絵画する。私にとっては、スケッチブックの上に手で絵を描く事より、CGで原画を作る事の方が容易い。私は一生涯続く怪我と障がいを与えたその事故から、科学と医療、テクノロジーによって命を永らえたことを自覚し、その後の私の生活もまた、テクノロジーによって豊かになっている事を痛感してきた。その一方で、私の心はいつも自分が生まれ育った自然に帰還したがる。CGこそ、テクノロジーの産物で生み出したアートであるにも関わらず、人の手と息のかかった物理的な状態に還すことにこだわりたいのだ。CGで3Dに再現された原画を、キャンバスの上に絵具で再現しなおすことにしたのだ。CGという無機質なデータの世界から、生々しい臭いの漂う物理的な世界へ自身の魂と身を引き戻すかのように、その回帰的なプロセスは実施されるべきだ。
私が自然に焦がれるのは、AIによって自分たちの嗜好にぴったりとアルゴリズムされた快楽の園で溺れる事よりも、花と命とが時で朽ちる世界に生きたいという事からだ。私のこの思想と立場は矛盾を孕んでいる。自然を破壊しながら、テクノロジーの恩恵の外には出られない私たち人間の立場とも幾分重なるのだ。
そして、私は自身が日本人として、そのグレイ(どっちつかず)の立場にある事を思い知らされてきた。私たちは、世界の資本主義のリーダーの文脈とルールに永久的に操られる国民であり、また、自分たちの意思で世界のリーダーを勤められる強さがあるわけでもない。西と東から流れ着くカルチャーやルールを許容し、主体的ではない自分でそこに立ち尽くすのだ。
松嶺貴幸のアート・ステートメント
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HAM ARTGANG
松嶺貴幸はオリジナルアートキャラクター「HAM(ハム)」を制作、NFTデジタルアートとフィジカルアートをハイブリッドさせた作品を国内外に発表、展開しています。NFTアートの世界での先駆的なチャレンジを行っています。
経 歴
企業とのアート企画
個 展
グループ展
ソーシャルアクティビティ
アートディレクション・デザイン
